腹八分目

ボーイズラブ(BL)作家・久我有加のブログです。

番外編SS更新しました

『初恋列車』の番外編SSを更新しました。
随分と遅くなってしまって、申し訳ありませんでした。
お楽しみいただけたら幸いです。

気が付けば、プ●野球のペナントレースが始まり、大相●五月場所も始まり、孤●のグルメ シーズン6も始まっていました…。この調子だと、あっという間に夏の甲子園が始まりそうです。時間の流れの速さが怖い今日この頃。

拍手や拍手コメントをくださった方、ありがとうございました! 励みになりました。とても嬉しかったです。
マイペースにもほどがあるのんびり更新のブログですが、お時間がありましたら、またぜひ覗いてやってくださいませ。










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甘い朝(『初恋列車』番外)

拙著『初恋列車』の番外編で、雪輪視点です。
それでもいいよ、という方はどうぞ。



 ふと目を開けると、視界に飛び込んできたのは艶やかな黒髪だった。すうすうと健康的な寝息が聞こえてくる。それに温かい。
 ああ、そうか。昨夜、つむ君と一緒に寝たんだった……。
 腕の中で無防備に眠る恋人に愛しさが込み上げてきて、雪輪は紬の頭にそっと口づけた。熟睡しているのか、起きる気配はない。Tシャツの襟ぐりから見え隠れする赤い印は、昨夜、雪輪がつけたものだ。
 遮光性のカーテンの向こう側は既に明るかった。が、起きる時間には少し早いようだ。肌に触れる空気はわずかにひんやりしていて、秋の気配を感じさせる。
 紬と恋人になって約五ヶ月。昨日は土曜日で、バイト先まで紬を迎えに行った。戸を開けて視線が合うと、彼はいつもパッと顔を輝かせる。その表情がたまらなくかわいくて、戸を開ける前からにやけてしまう。
 紬と初めて出会ったのは幼稚園のときだ。航太に悪口を言われて泣いていたところに声をかけてくれたのが紬だった。どうしたの? と問われて驚いて顔を上げると、男の子が立っていた。特別整った顔立ちではなかったが、くりっとした真っ黒い瞳がなんとも言えず可愛らしかった。人と接するのが得意ではないらしいのに、一生懸命話しかけてくれたのが印象的だった。
 紬は雪輪の名前を褒めてくれ、花が好きなこともかっこいいと言ってくれた。その真剣な眼差しと真面目な口調から、彼が本心から称賛してくれているとわかって、驚くと同時に嬉しかった。それまでにも周囲に褒められることは少なからずあったが、彼ほど熱心に、心からあふれ出たとわかる言葉をくれた人はいなかった。
 お気に入りだというハンカチで紬が涙を拭いてくれたとき、胸の中で熱いものが弾けたのをはっきりと覚えている。
 あのとき、僕は恋に落ちたんだ。
 鉄道好きの紬はあらゆることを鉄道にからめて話したが、少しも気にならなかった。なにしろ鉄道の話をするときの紬の瞳はキラキラと輝いていたからだ。そのキラキラは眩しいほどで、見ているだけでドキドキした。なんてきれいなんだろう! なんてかわいいんだろう! 愛らしい花はたくさん見てきたが、そのどれよりも瞳を輝かせる紬は可愛らしかった。
 もちろん、ただキラキラする瞳だけを好きになったわけではい。安易に他人のせいにしないまっすぐなところ、人の気持ちがわかる優しいところ、そして不器用で真面目なところにも惹かれた。
 その熱い想いは東京と大阪に離れ離れになった後も育ち続け、十八歳になる今日まで一度も揺らがなかった。
 想いが成就した今も、微塵も揺らいでいない。
 これから先も一生、揺らぐことはないだろう。
「ん……」
 小さな声を漏らした紬が、腕の中でもぞもぞと動いた。雪輪の胸元に額を擦りつけ、安心したようなため息を落とす。
 ああ、かわいいな。
 その上、たまらなく色っぽいと知ったのは恋人になってからだ。
 明日、列車に乗ると言われたので触るだけにしたが、雪輪の愛撫に素直に反応して喘ぐ様は扇情的で淫らだった。雪輪君、好き、好き、とくり返し甘く囁かれ、危うく触る以上のことをしてしまいそうになった。
 鉄道にしか興味がなかった紬と恋人になれたのは、本当に奇跡のようだと思う。
 嬉しくて幸せで、思わずぎゅっと細身の体を抱きしめると、んむ、と紬が声を出した。
「なに……?」
「あ、ごめん、起こしちゃったね」
「ゆきわくん……?」
 掠れた声で呼んだ紬は、こしこしと目をこすった。かふ、と小さく欠伸をして、またこしこしと目をこする。
 どこかあどけない仕草に、自然と頬が緩んだ。
「いま何時……?」
「七時だね」
「七時……」
「そろそろ起きる?」
 ん、と頷いた紬は、ぱちぱちと瞬きをした。そして改めてこちらを見上げてくる。
 何か言いたいことがあるのかと見つめ返すと、はにかんだ笑みを浮かべた。
「あの……、おはよう、雪輪君」
 もう何度もこうして同じベッドで目を覚ましたというのに、いまだに恥じらう彼に、たまらない愛しさが湧く。
 ほんとにかわいい。つむ君よりかわいいものは、この世には存在しない。
「おはよう、つむ君」
 目を細めて微笑んだ雪輪は、彼の額にキスを贈った。紬はやはり恥ずかしそうに笑う。
「雪輪君、今日は仕事があるんだったよね」
「うん。午後からだけどね。だから今日はつむ君と一緒に列車に乗れないんだ」
 そっか、と応じた紬は、少しだけ残念そうに眉を寄せた。あくまで少しだけ、だ。よくわからないが、鉄道に乗るのが好きな鉄道オタク――乗り鉄は、単独行動が基本らしい。列車に乗ることさえできれば、一人でも平気なのだ。
 つむ君らしいけど、鉄道に取られるみたいでちょっと妬ける……。
「気を付けて行ってきてね」
 でもいいんだ。僕はつむ君にキスできるけど、鉄道はつむ君にキスできないし。
 そんな子供じみたことを思いつつ、もう一度紬の額にキスをすると、彼はくすぐったそうに首をすくめた。そして遠慮がちにではあるが、ちゅ、と雪輪の顎にキスを返してくる。
「来週の日曜は雪輪君、仕事入ってないって言ってただろ。俺も来週は列車に乗りに行かないから、ずっと一緒にいよう」
 ね、という風に小さく首を傾げた紬に、雪輪は赤面してしまった。鉄道に妬いていたことを見抜かれていたようだ。
 人に妬くならまたしも、鉄道に妬くなんて恥ずかしい。
 けれど紬が嫉妬に気付いてくれて、なおかつ気にかけてくれたことは、胸が熱くなるほど嬉しかった。
「ありがとう、つむ君。大好き」
 ありったけの想いを込めて囁くと、紬は瞬きをした。たちまち滑らかな頬が桃色に上気する。
「俺も、好き」
 照れくさそうに言われて、雪輪は我慢できずに紬をぎゅっと抱きしめた。紬も同じくらいの強さで抱きしめ返してくれる。
 こんなにかわいくて優しいつむ君と恋人になれて、僕はほんとに幸せだ。











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すみません!

諸事情により、『初恋列車』の番外編SSの更新が遅れております。
たいへん申し訳ありませんが、もうしばらくお待ちくださいませ。

拍手や拍手コメントをくださった方、ありがとうございました! とても嬉しかったです。
かようにのろのろ更新のブログですが、もしよろしければまたお越しください。










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『初恋列車』特典情報

4月1日発売予定の『初恋列車』(角川ルビー文庫)の特典の情報が、ルビー文庫さんのツイッターに載っています。
もしよろしければチェックしてやってくださいませ。


拍手や拍手コメントをくださった方、ありがとうございました! とても嬉しかったです。
次は『初恋列車』のSSを更新する予定ですが、恐らく4月の半ばくらいになると思います…。
発売日頃に更新できず、申し訳ありません。
ご興味を持たれましたら、またぜひ覗いてやってくださいませ。











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今日の僕と君                  (『あの日の君と、今日の僕』番外)

拙著『あの日の君と、今日の僕』の番外編です。
このSSは渋川視点です。同じ内容の健吾視点のSSを、初回ご購入特典ペーパー用に書き下ろしました。健吾がこのSSの中で何を考えていたのか知りたいと思われた方は、特典ペーパーを読んでやってくださいませ。





 土手には春とは名ばかりの冷たい風が吹いていた。アスファルトの道も、遠くに見える橋も、頭上に広がる空も、そして土手の上で向かい合う二人の男子高校生も、全てが薄紫色に染められている。
 ああ、この夢見るん久しぶりや……。
 目の前で不審げに眉を寄せている男を見つめ、そんなことを思う。
 彼――築島健吾と恋人として付き合って約一年。再会するまではときどき見ていたが、最近はめっきり見なくなった。築島と恋人になり、幸せな記憶の方が多くなったせいかもしれない。
 高校生の渋川は、どうにかこうにか口を開いた。
 お、俺……、俺、築島が好きなんや。俺と、付き合うてください。
 掠れた声で告白し、勢いよく頭を下げる。
 この後、ごめんなさいと断られるのだ。その瞬間を想像しただけで、胸が捩れるように痛む。全身がぶるぶると震え出す。夢だとわかっていても、築島に拒絶されるのは辛い。
 しかし、今回の夢は今までとは違った。
 目の前に立っている築島は、声に出して明るく笑う。
 おまえが俺を好きなんはよう知ってる。だいたい、もう付き合うてるやろが。
 あきれたような、それでいて愛しさが滲む物言いに、渋川は恐る恐る顔を上げた。
 ニカ、と整った白い歯を見せて笑った築島は、大きく頷いてみせる。
 ちなみに俺も、おまえが好きやで。
 その言葉を聞いた途端、体が芯から燃えるように熱くなった。止める間もなく、ぶわ、と涙があふれる。
 つ、築島……!
 歓喜に突き動かされ、渋川は築島を抱きしめた。二度と離すまいと、両腕にぎゅうぎゅうと力を入れる。
 ありがとう、築島。俺も、好きや。大好きや、愛してる……!
 心の内に次から次へと湧き出てくる言葉を、そのまま口に出す。築島が背中に腕をまわしてしっかり抱きしめ返してくれたので、歓喜はいや増した。
 嬉しい、嬉しい、幸せや……!
 泣きながらそうつぶやいた次の瞬間、きつく抱きしめていた築島の体がふいにかき消えた。驚いて腕の中を見るが、築島はどこにもいない。
 築島、築島? どこ行ったんや。
 強烈な喪失感と不安感に襲われ、築島! と叫ぶように呼ぶ。
 刹那、肩に強い衝撃が走った。ふあ、と思わず声をあげてしまう。
「ん、あれ……? 築島、築島……?」
「なんや、ここにおる」
 素っ気ないながらも、どこか優しい物言いが腕の中から聞こえてきて、渋川は改めて腕の中に視線を向けた。先ほど消えたと思った築島が、確かにそこにいる。
「ああ、よかった……」
 全身の力が緩んだ。ほっと安堵のため息が漏れる。
 そうだ。昨夜、渋川のマンションで約一ヶ月ぶりにセックスをした後、一緒にシャワーを浴びて、そのままベッドに潜り込んだのだ。
 昨夜は久々に味わう築島の体に夢中になりすぎて、何度もしてしまった。明日が休みだったこともあるのだろう、築島が拒まずに受け入れてくれたのが何より嬉しかった。
「なんやねん、怖い夢でもみたんか?」
 尋ねてきた築島の声は、やはり甘くて優しかった。愛されていることが伝わってきて頬が緩むのを感じつつ、ううん、と首を横に振る。
「逆や。めちゃめちゃええ夢やった。高校のときの夢でな、俺が告白したら、築島、俺も好きやでって言うてくれてん。嬉しいてたまらんくて思い切り抱きしめたんやけど、急におらんようになって、びっくりして目ぇ覚め」
 た、という言葉を口に出す前に、思い切り抱きつかれた。昨夜、渋川が刻んだ赤が無数に残る剥き出しの上半身がぴたりと密着して、顔が熱くなる。思う存分築島と交わって満たされたはずの体も、じわりと温度を上げる。
「つ、築島?」
「よし、わかった。もういっぺんやろう」
「もういっぺんて何を?」
「セックス。ほれ、したるからパンツ脱げ」
 躊躇なく下着を引き下ろそうとしてくる築島の手に、渋川は焦った。もともと男前な性格の築島だが、時折こうして驚くほど大胆になる。嬉しいけれど、唐突な行動に戸惑ってしまう。
「え、うわ、ちょ、待って、なんで?」
「したいからに決まってるやろが。おまえはしたないか? したないんやったらやめるけど」
「し、したいです、めっちゃしたいけど、なんで急に?」
 既に体は熱くなっているのだ。したいに決まっているが、どこで恋人のスイッチが入ったのかわからなくて尋ねる。
 築島は先ほどみた夢と同じように、ニカ、と白い歯を見せて笑った。
「俺もおまえと同じ夢見た」
「え、そうなんか?」
「そうや。せやからもういっぺんやるぞ」
「原因と結果が結びついてへん気がする……」
「ひとつのベッドにほとんど裸で一緒に寝てるこの状況で、ごちゃごちゃ考えんな。するんか、せんのか、どっちや」
「す、する!」
 慌てて頷くと、築島は笑いながら口づけてきた。痛いような、それでいて熱いような愛しさが胸いっぱいに広がる。
 ああ、俺は健吾が好きや。世界で一番健吾がかわいい。
 それに、めちゃめちゃカッコエエ。










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