腹八分目

ボーイズラブ(BL)作家・久我有加のブログです。

広告が…

気が付けば前回の更新から一ヵ月以上が経ち、トップに広告が出ていました…。
元気です。生きています。
一ヵ月経つのが早すぎる…。

拍手や拍手コメントをくださった方、ありがとうございました! とても嬉しかったです。励みになりました。
相変わらずののろのろ更新ですが、またお時間のあるときにでもお越しくださいませ。











スポンサーサイト

PageTop

番外編更新しました

『恋の二人連れ』(新書館ディアプラス文庫)の番外編を更新しました。
ご興味を持たれましたら読んでやってください。

拍手や拍手コメントをくださった方、ありがとうございました! とても励みになりました。相変わらずぼちぼち更新ですが、またお時間のあるときにでもお越しくださいませ。









PageTop

兄様の手紙(『恋の二人連れ』番外)

拙著『恋の二人連れ』の番外編です。
間宮の妹、豊浦一美視点です。が、間宮も梓も出てきません。そしてボーイズラブ要素もありません(すみません…)。
それでもいいよ、という方はどうぞ。



 ゆったりとした椅子に腰かけた豊浦一美は、些か前のめりで文字を追っていた。先ほどから読んでいるのは兄、房山重良――もとい間宮照市の新刊だ。華美すぎず、だからといって簡素にもすぎない滑らかな文章は、するすると一美の中に入ってくる。
 裕福な家の傲慢な女性が群がる男たちを手玉にとる。が、真実の愛に目覚めた途端、それまでの行いが原因で落ちぶれていく様を描いた物語だ。頁を繰る手が止まらない。
 大変だわ、大変だわ。どうなるのかしら。どうなってしまうのかしら。
 ハラハラしながら読み進めていくうちに、残りの頁がわずかになってきた。
 読み終わりたくない。もっと読んでいたい。
 けれど主人公が最後にどうなるのか確かめたい。
 そんな矛盾したことを思いながら頁をめくったそのとき、ノックの音がした。まるで己が主人公の女になったかのように感じていた一美は、ふと我に返る。
 ああ、いけない。
 ここは自宅の洋館の広い居間である。夫の趣味で、卓子から椅子から照明から、室内にある物はほとんど舶来品だ。脇にある立派な暖炉では、パチパチと音をたてて薪が燃えている。
 はいと返事をすると、失礼いたしますと頭を下げ、女中のミツが入ってきた。年は五十すぎだと聞いている。元は夫の実家である豊浦家に奉公していたそうだが、結婚を機に一度は退職したらしい。が、二年前に夫が病で亡くなり、子供たちもそれぞれ独立して手が空いたため、再び豊浦家で奉公したいと願い出たという。そこで所帯を持ったばかりの豊浦家の長男の家――つまり、一美が暮らすこの家で働いてくれないかと頼まれたらしい。他にも下男と料理人がいるが、内向きのことを担っているのはミツだ。おかげで家の中は滞りなくまわっている。
「奥様宛てにお手紙が届いておりましたので、持って参りました」
 差し出された手紙を、ありがとうと礼を言って受け取る。
「兄様からだわ!」
「ようございましたね」
 ミツはふっくりとした顔に笑みを浮かべた。この二週間ほど返信がなかったので、一美がやきもきしていたのを知っているのだ。
「大阪は東京よりは暖かいらしいけれど、兄様にとったらお引っ越しして一年くらいしか経っていない、慣れない場所でしょう? お風邪でもひかれたんじゃないかって心配だったの」
「お返事がきたということは、お元気だということですよ。さ、奥様も今日は特別冷えていますから暖かくなさってくださいまし。お風邪を召されたら大変です」
 ミツは別の椅子にかけてあった毛糸のショールを一美の肩にそっと載せた。更に膝の上のブランケットを深くかけ直してくれる。
 ミツのような人が母様だったらよかったのに……。
 結婚した当時、姑は既に故人だった。妻を深く愛していたという舅は再婚していないので、豊浦家で母と呼べる人はいない。
 一美は実母と折り合いが悪い。それもこれも、両親が長兄と次兄を差別する様を目の当たりにしたせいだ。物心ついたときには既に、次兄は蚊帳の外に置かれていた。父はまだましだったように思うが、母は何も悪いことをしていない次兄に対して、無愛想な子、生意気な子、図々しい、卑しい、といちいち悪口を言った。長兄の唯彦も同じだ。次兄の揚げ足をとってばかりいた。もっとも、長兄の場合は病がちで満足に学校へ行けず、次兄より二つ年上なのに学年がひとつ下になってしまったことに加え、勉学でも運動でも次兄に敵わない劣等感がそうさせたのかもしれないが。
 どんなに優しくされても、次兄を憎しみの眼差しで射る母を好きになれなかった。次兄が親戚の家から養子にきた他人だと聞かされたところで、生まれたときから家にいるしげ兄様が他人とはどうしても思えなかった。むしろ次兄を他人だと冷たく言い切る母を恐ろしいと思った。
 幼い頃から面倒を見てくれたばあやにばかり懐く一美を、母も持て余したようだ。必要以上にかまってくることはなかった。
 今改めて振り返ると、そもそも母は娘である一美にあまり関心がなかったように思う。母の思考の中心は、常に長兄の唯彦一人にあった。
「私も間宮先生のご本、読ませていただきました。とてもおもしろかったです。今まで一度も朝寝坊をしたことがないこのミツが、危うく徹夜して寝坊してしまうところでした」
 ミツの悪戯っぽい物言いに、一美はパッと顔を輝かせた。
「まあ、本当? ミツにそう言ってもらえて嬉しいわ!」
「間宮先生は、きっとお優しい方なんですね」
「どうしてそう思うの?」
 不思議に思って尋ねると、ミツは微笑んだ。向けられる眼差しは柔らかい。
「ご本を読んでいてそう感じました。たとえ悪者でもなんだか物悲しさが滲んでいて、憎々しい感じがしませんでした。だからきっとお優しい方だと思ったんです」
「そう、そうなの! 兄様はとってもお優しい人なのよ」
 母と長兄に邪険にされても、次兄は何も言い返さなかった。心配した一美が傍へ寄っていくと、大丈夫だと優しく笑ってくれた。熱を出して寝込んだときに枕元で本を読んでくれたのも、ばあやが亡くなって毎日泣いていた一美を懸命に慰めてくれたのも、女学校の勉強の面倒を見てくれたのも、一美が初めて自分で作った料理を褒めてくれたのも、全て次兄だった。高等学校への進学を機に家を出た後も、よく手紙をくれた。細々とした相談事にも乗ってくれ、他愛ないやりとりにも付き合ってくれた。実家を離れた一美にとって、どんなに心強かったかしれない。
 二年前、家同士が決めた豊浦勲との結婚に不安がなかったのも、勲が次兄の友人だったからだ。
 しげ兄様のお友達なら間違いないわ。
 事実、夫は快活で公平な素晴らしい人だった。次兄のことも何かと気遣ってくれるのが嬉しい。
 房山紡績が事実上倒産したと夫に聞いたとき、助けなかった豊浦家を冷たいとは思わなかった。我儘で見栄っ張りな唯彦兄様に社長が務まるはずがない。ずっとそう思ってきたからだ。夫と舅が長兄を経営陣から追い出したのも納得だった。
 ちなみに今、両親と長兄は屋敷を売り払い、ごく小さな一軒家で暮らしているそうだ。長兄は舅が紹介してくれた会社で働いているという。両親が選り好みしたせいで長兄が結婚していなかったことは、結果的に幸いだったと思う。他所のお嬢さんに余計な苦労を味わわせなくて済んだ。ともあれ三人が有名作家となった次兄を頼らなかったことが、一番ほっとした。
「わかってもらえて嬉しいわ。皆、兄様は偏屈だとか無愛想だとか悪く言うのだもの」
 兄の本と兄の手紙を一緒に胸に抱いてむくれる一美に、ミツはおかしそうに笑う。
「旦那様もですか?」
「そうよ。気心の知れたお友達同士だから、遠慮のない言い方をなさるのかもしれないけれど。あ、でもね、大阪で兄様のことをわかってくださる方と出会われたみたいなの」
「それはようございました」
「ええ、本当によかったわ。ただ、勲さんは何度もお会いしているらしいんだけれど、私はまだお会いしたことがないの。それがちょっと不満だわ」
 次兄が心を奪われたのは、扇谷梓という編集者の青年だという。相手が男であることに少し驚いたが、それ以上に、次兄に寄り添ってくれる人が現れたことが嬉しかった。優しくて思いやりがある一方、しっかりとした芯のある人らしい。きっと君とも気が合うよ、と夫は笑っていた。
「まあまあ奥様、お子様が誕生された後で、お二人に東京へ来ていただいたらよろしいじゃありませんか。その頃には東京も今以上に復興していますでしょうしね」
 ミツに慈しむように背中を撫でられ、それがいいわね、と頷いて己の腹を優しく撫でる。身籠っていることがわかったのはつい先日のことだ。夫は何度も飛び上がって喜び、舅はそんな息子を落ち着かんか! と叱りながらも、見たことがないほど頬を緩ませていた。次兄にはまだ知らせていない。
 兄様、びっくりなさるかしら。
 いずれにせよ、新しい命の誕生を心から喜んでくれるだろう。扇谷青年も喜んでくれるに違いない。なにしろ兄が好いた人なのだから。
「おや、旦那様のお帰りだわ。今日はいつもよりお早いですね」
 窓の外に視線をやったミツが言う。門から入ってきたのは最新式の自動車だ。
 出迎えるために立ち上がろうとした一美を、いけません、とミツがすかさず制止する。
「あら、平気よ。少しは動かないと」
「このところご体調がよろしいと申しましても、今日は特別寒いんですよ。玄関までお出迎えになるのはいけません。私が旦那様に叱られてしまいます。さ、お座りになってくださいまし」
 一美の膝にせっせとブランケットをかけ直したミツは、扉の方へ踵を返した。が、すぐに振り返る。
「後で温かいお飲み物をご用意いたしますから、旦那様とご一緒に召し上がってくださいましね」
 それこそ温かな飲み物のような笑みを向けられ、ありがとうと一美は礼を言った。ミツが部屋を出るのを見送った後、ほう、と自然に安堵のため息が漏れる。
 胸に抱いていた手紙を膝に下ろすと、次兄の流麗な字が目に飛び込んできた。以前よりも心なしか字体が柔らかくなったように見える。
 手紙を読まなくても、内容がわかる気がした。きっと扇谷青年と仲睦まじくすごす日々の様子が書かれているのだろう。
 よかったわ。兄様、お幸せなのね。
 私も、とっても幸せだわ。











PageTop

『恋の二人連れ』特典情報

3月10日頃発売予定の『恋の二人連れ』(新書館ディアプラス文庫)の特典の情報が、ディアプラスさんのサイトに載っています。
もしよろしければチェックしてやってください。


拍手や拍手コメントをくださった方、ありがとうございました! とても嬉しかったです。
次は『恋の二人連れ』の番外編SSを更新する予定です。ご興味を持たれましたら、覗きに来てやってくださいませ。
どうぞよろしくお願いいたします。










PageTop

新刊のお知らせ

3月10日頃に『恋の二人連れ』(新書館ディアプラス文庫)が発売予定です。
イラストは、伊東七つ生先生です。

表題作は2017年の「小説ディアプラス アキ」に掲載していただいた話で、大正時代の大阪が舞台です。かつてない健気受ブームの真っ最中に執筆したため、受は健気です。そして天然です。ちなみに攻は偏屈で不愛想です。
単独で読める独立した話になっていますが、既刊『疾風に恋をする』と少しリンクしています。ご興味を持たれた方は、こちらもぜひ読んでやってくださいませ。
どうぞよろしくお願いいたします。


拍手や拍手コメントをくださった方、ありがとうございました! とても嬉しかったです。相変わらずのまったり更新ですが、またぜひお越しください。










PageTop