腹八分目

ボーイズラブ(BL)作家・久我有加のブログです。

久々の更新です

お久しぶりです。生きています。
『疾風に恋をする』の番外編と、「小説Chara(キャラ)」さんでのお仕事情報を更新しました。よろしくお願いいたします。

今年は寒くなるのが早いですな…。
いろいろなことがあった一年でした。もう振り返ってしまっていますが、2017年はまだ一ヵ月ほどあるのです。て、一ヵ月しかないんかい!(ノリツッコミ)
なんだか一年が二カ月くらいの尺で過ぎ去っていく感じです…。

拍手や拍手コメントをくださった方、ありがとうございました! とても嬉しかったです。
かようにのろのろ更新のブログですが、またぜひお越しください。










スポンサーサイト

PageTop

エッセイを書かせていただきました

明日、11月22日(水)発売の雑誌「小説Chara(キャラ)Vol.37」(徳間書店)にエッセイを書かせていただきました。
もしよろしければ、読んでやってくださいませ。
どうぞよろしくお願いいたします。









PageTop

相身互い(『疾風に恋をする』番外)

拙著『疾風に恋をする』の番外編です。
が、表題作に登場したやくざの男視点です。英介も半次郎も出てきません。
それでもいいよ、という方はどうぞ。





「親分さん、今回もたいへんお世話になりました。無事に千秋楽を迎えられましたのも、全て堂永屋さんのおかげでございます。誠にありがとうございました」
 四十がらみの男が深々と頭を下げるのに続いて、男の後ろに控えていた老若男女八人もありがとうございましたと畳に頭を擦りつけた。この九人は旅回りの一座である。大阪での興行を終え、次の土地へ発つ前に挨拶にやって来た。
 鷹揚に頷いてみせたのは、上座にどっかりと腰を下ろした五十手前の男だ。この辺りの繁華街を仕切る博徒の親分である。一座に劇場と宿を手配してやったのは親分だ。
「道中、気ぃ付けてな。伊佐」
 親分に促され、脇に控えていた伊佐次は男の前へ進み出た。そして親分から預かっていた紙包みを男に差し出す。
「餞別や。皆で旨いもんでも食うてくれ」
 親分の言葉に、男は目を丸くした。
「え、そんな。ご祝儀もたくさんいただきましたのに……」
「かめへん。取っといてくれ」
「そうですか? そしたら、お言葉に甘えてありがたくちょうだいいたします」
 男が押し頂くようにして受け取ると同時に、一座の者たちもそろって頭を下げた。皆、頬を上気させている。思いがけず祝儀をもらえて嬉しそうだ。
 親分は相変わらず気前がええ。
 木戸銭の中から収められた上納金より、一座に与えた祝儀の方が多い。十年ほど前から堂永屋の縄張りで興行を打つようになった一座だが、特に今回は客の入りが良くなかった。堂永屋が損をしたのが実情だが、損を被るのも顔役の役目である。そもそも堂永屋の生業は博打だ。博打以外の稼ぎは端からあてにしていない。
「伊佐さん、お世話になりました」
「どうかお達者で」
 一座の者は親分だけでなく、伊佐次にも丁寧に挨拶をして去っていく。興行中、困ったことはないかと何度か足を運んだせいだろう。
 一座を見送った伊佐次は小さく息を吐いた。それが合図になったかのように、隣にいた親分が口を開く。
「大阪での興行は、これからも厳しいかもしらんなあ」
「へえ。前のようには客が入らへんかったようで」
「まあ無理もあれへん。大阪には落語に見世物小屋、歌舞伎、文楽、なんでもあるさかいな。最近は活動写真もやたら人気があるよって」
 活動写真という言葉に、今はもう大阪にはいない二人の男の顔が脳裏に浮かんだ。
 半月ほど前、美貌に似合わない鉄火な気性の青年は、かつて伊佐次に宣言した通り、秋本家の元跡取りを東京へ連れ去った。
 残された秋本勇五郎はほっとしたような、それでいて泣き出しそうな顔をした。
 これでもうほんまに、兄さんは秋本家に戻って来ぇへんのやな……。
 隣にいる伊佐次の存在を忘れたかのように、呆然とつぶやいた。
 結局、最後まで勝てなかった。そう思ったのか。あるいは、良くも悪くもずっと身近にあった大きな存在がなくなって、空虚な気持ちになったのか。
 自分から逃げたわしには、あのお人の気持ちはほんまにはわからん。
「伊佐」
 ふいに呼ばれて、へえと応じる。
「秋本家のボンは達者か」
「……こないだ見かけたときは、お達者でした」
「さよか。まあ、ほどほどにしとけ」
 へえ、と返事をして頭を下げる。親分には、勇五郎のために動いたことは話していない。が、伊佐次が十三の頃から面倒を見てきた親分には全てお見通しのようだった。それでも咎められなかったのは、伊佐次が私利私欲で動いたわけではなかったからかもしれない。いずれにしろ、伊佐次という新しい名と居場所をくれた大恩人である親分に、これからもますます尽くそうと決めた。
「見回りに行て参ります」
「ああ、頼んだぞ」
 今度は無言で頭を下げ、立ち上がる。
 伊佐次は江戸の頃から続く呉服問屋から事業を拡大した、大きな百貨店の跡取り息子だった。ひとつ下に弟がいたのだが、この弟が伊佐次より何倍も優秀だった。物心ついたときには既に二親の関心は弟だけに向けられ、伊佐次は常に孤独だった。親を恨んだし、弟を憎んだ。やり場のない苛立ちや腹立ちを、誰彼かまわず喧嘩を売ることで解消した。その結果、二親の心はますます離れた。親だけではない。番頭も親戚も誰も、伊佐次の気持ちを慮ろうとはしてくれなかったし、かばってもくれなかった。
 ここはわしの居場所やない。わしは好きに生きる。
 嘯いて家を飛び出したのは十三のときだ。たまたま酒場の喧嘩に居合わせ、むしゃくしゃする気持ちに任せて大暴れした。そこにいたのが親分だった。
 行くとこないんやったら、うち来るか。飯食わしたる。
 親ですら冷たかったのに、会ったばかりの赤の他人にそう言われて驚いた。涙が出るほど嬉しかった。
「あ、伊佐兄、お気を付けて」
 玄関を掃除していた若者が慌てて頭を下げるのに頷いてみせ、外へ出る。青く晴れた空が頭上に広がった。吹いてくる風はひんやりとしているが、乾いていて快い。大勢の人であふれる賑やかな通りへと足を向ける。
 まあ、博徒の修行もそれなりに大変やったけどな……。
 先ほどの若者のように、一家に入ったばかりの三下は、掃除から飯炊き、洗濯まであらゆる雑用をこなさねばならない。へまをして怒鳴られたり殴られたりすることも度々あった。が、親分も兄貴分たちも、誰かと伊佐次を比べたりしなかった。ただ伊佐次を伊佐次として扱ってくれた。だから辛いとは思わなかった。
 けど、わしが逃げたことに変わりはない。
 勇五郎さんは逃げんと踏ん張った。
 母という味方がいたせいかもしれないが、その母も真の味方には見えなかった。そう、勇五郎の周囲には、一人も味方がいないように見えた。それは今も変わらない。
 道端で酔い潰れている勇五郎を介抱したのは、この辺りの見回りを任されるようになったばかりの頃だ。そのときは勇五郎の家の事情など知らなかったのに、土で汚れた上等な着物を見て、なぜか無性に悲しくなった。
 勇五郎も伊佐次に己と同じ匂いをかぎ取ったらしい。それから店ではなく外で――それも裏通りでたまに会うようになった。しばらくして勇五郎が秋本家の跡取り息子だと知り、並んで吞むことはやめた。いつも初めて顔を合わせた他人のようなふりをした。屋台の親父に金を渡して、共に飲んでいることを他言しないよう口止めするのも忘れなかった。もっとも、長い間堂永屋の縄張りで商売をしてきた親父は金などいらないと言ったのだが。
 そうして一緒に呑むうちに、ぽつりぽつりと語られた勇五郎の生い立ちが、己の歩んできた道と重なったのは言うまでもない。
 憎い。悔しい。寂しい。やるせない。
 しかし、どうすることもできない。
 真面目故だろう、歌舞伎を疎かにすることも逃げることもできずにもがき苦しむ勇五郎が、やはり悲しかった。また、同時にひどく愛しくもあった。自己憐憫に近い感情だとわかっていたが、恩のある親分に隠れてでも、勇五郎のために一肌脱いでもいいと思うほどには入れ込んだ。
 それにわしは、あのお人の歌舞伎が好きや。
 こっそり見に行った舞台の上の勇五郎には、確かに煌びやかな華はなかった。それでも静謐な美に満ちていて見惚れてしまった。こない美やかやのに、どこが悪いんや。何が悪いんや。勇五郎を認めない周囲に、改めて怒りが湧いたことを覚えている。
 表通りに出ると、前から人力車が走ってきた。脇へよけてふと視線を上げる。
 人力車に乗っていたのは勇五郎だった。刹那、目が合う。
 涼しげな一重の目がわずかに見開かれた。唇から微かに白い歯が覗く。恐らく伊佐次以外には見せない、勇五郎という人本来の柔らかな笑みだ。
 ふ、と自然に頬が緩むと同時に、人力車は脇を走り抜けた。ガラガラガラ、という車輪の音が遠ざかっていく。呼び止めないし、呼び止められることもない。人目につくところでは他人のふり。それは伊佐次が決めた約束事だ。
 とはいえこの約束を口にしたとき、普段はおとなしい勇五郎が珍しく誰に見られてもかまわないと言い張った。酒が入っていたせいか、ただ会うて話すことの何が悪いんや、と息巻いた。しかし伊佐次は決して譲らなかった。上方歌舞伎の名門の跡取り息子と博徒が、往来で親しげに言葉をかわすわけにはいかない。全ては、これからの秋本家を背負う勇五郎のためだ。
 ――たぶん、勇五郎さんの苦しみはまだ続く。
 腹違いの兄が遠く離れた土地へ行ってしまったとしても、兄と勇五郎を比べる者は後を絶たないだろう。いずれ勇五郎の良さを認める者が現れるかもしれないが、恐らくもう少し先の話だ。
 それまでは、わしがあのお人の味方でおる。
 お天道様の下では会えない。闇の中だとしても、触れることなど以ての外だ。
 ただ、今し方のように無防備に微笑む顔を、ほんの一瞬でも見られたらいいと思う。
 わしには、それだけで充分や。










PageTop

『疾風に恋をする』特典情報

11月10日頃発売予定の『疾風に恋をする』(新書館ディアプラス文庫)の特典の情報が、ディアプラスさんのサイトに載っています。
もしよろしければチェックしてやってください。


拍手や拍手コメントをくださった方、ありがとうございました。とても嬉しかったです!
次は『疾風に恋をする』の番外編SSを更新する予定ですが、恐らく発売日より遅れると思います…。このところ、毎回遅れてしまって申し訳ありません。
ご興味を持たれましたら、覗きに来てやってくださいませ。
どうぞよろしくお願いいたします。











PageTop

新刊のお知らせ

11月10日頃に『疾風に恋をする』(新書館ディアプラス文庫)が発売予定です。
イラストは、カワイチハル先生です。

表題作は2016年の「小説ディアプラス アキ」に掲載していただいた話で、大正時代の大阪が舞台です。雑誌の特集のテーマが「年の差(年上攻)」でしたので、私にしては珍しく攻の方が9つ年上です。が、年下の受はいつも通り、腕っぷしも負けん気も強いという設定です。どうぞよろしくお願いいたします。

ちなみに先月発売の「小説ディアプラス」に掲載していただいた話と、わずかですがリンクしています。ご興味を持たれた方は、こちらもぜひ読んでやってくださいませ。


拍手や拍手コメントをくださった方、ありがとうございました。とても嬉しかったです!
相変わらずののんびり更新ですが、またぜひお越しください。











PageTop